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交通事故における「損害」はどのように捉えるべきか?

Q.交通事故における「損害」はどのように捉えるべきか?

A.加害行為がなかった場合の利益状態と加害行為がなされた場合の利益状態との「差」を損害と捉える見解(差額説)が通説である。ただし,実務上は,この考え方を基本としつつも,労働能力の喪失それ自体を損害と捉える見解(労働能力喪失説)の考え方も取り入れた運用がなされている。



損害とは


交通事故における損害賠償をするには,当然のことですが,「損害」が発生していなければなりません。この損害を金銭によって填補するというのが,損害賠償制度ということになります。


したがって,そもそも,交通事故における「損害」とは何なのかということが問題となってきます。この損害をどのように捉えるのかについては,いくつかの見解があります。




差額説


1つは,差額説と呼ばれる見解です。これは,加害行為がなかった場合の利益状態と加害行為がなされた場合の利益状態との「差」を損害と考える見解です。現在の通説とされています。


差額説によれば,損害は,財産的損害と精神的損害に区別され,財産的損害はさらに,財産が減少したという意味の積極損害と,得られるはずだった財産が得られなくなったという意味の消極損害に区別されると考えられています。


そして,この区別された各項目ごとに個別に損害を金銭的に評価し,それらを積み上げて損害を算定するという方式がとられます。例えば,入院治療費は●●円,逸失利益は●●円,慰謝料は●●円とし,その合計額が損害の金額となるということです。「個別損害積み上げ方式」と呼ばれることがあります。



死傷損害説


前記差額説に対しては,逸失利益の算定は死傷者の余命などに基づく仮定にすぎないとの批判や,被害者の所得などで差異が生じるのは生命の価値に差を設けることにつながるなどの批判があります。


そこで,提唱されたのが,死傷損害説です。これは,死傷そのものを1個の非財産的損害と捉えるという見解です。死傷損害説のうちにもいくつかの見解がありますが,代表的な見解は,人身事故における損害を定額化すべきという定額説です。


死傷損害説は,収入の格差による個人差を抑制できるなどの利点がありますが,被害者以外の近親者を被害者とすることができなくなること,死傷自体の金銭的評価が困難であること,損害額の認定が裁判所のまったくの自由裁量となってしまい,加害者側の防御が困難となったり客観性を欠くおそれがあること,現実の被害を填補する者である以上,収入の多寡によって損害額に差異が生じることはむしろ当然であり衡平を欠くものではないことなどの批判がなされています。




労働能力喪失説


もう1つの見解は,労働能力喪失説と呼ばれる見解です。これは,人間は潜在的に労働をして収入を得る能力を有しているとの考えから,その能力の喪失それ自体を財産的損害と捉える見解です。


労働能力喪失説によれば,被害者の努力等によって現実には減収がない場合や減収が見込まれない場合であっても,客観的に労働能力が喪失されているのであれば,損害を認めうるということになります。



裁判例・実務の考え方


前記のとおり,損害の概念をどのように捉えるかについてはさまざまな見解がありますが,判例は,差額説を採用していると考えられています。


そのため,実務においては,前記の個別損害積み上げ方式が用いられており,個々の項目の損害額を主張・立証していくことになります。この各損害項目については,事実上,一定の基準値が定められており,法的安定性を図るための工夫がなされています。


また,労働能力喪失説を正面から認めた最高裁判所の判例はありませんが,下級審裁判例では,労働能力喪失説を採用したものもあり,差額説的な考え方を基本としつつも,労働能力喪失による損害を評価しているという場合も少なくありません。


その意味では,実際の裁判実務においては,差額説を基本としつつ,労働能力喪失説の考え方も取り入れた運用がなされているといってよいでしょう。

テーマ: 法律 -  ジャンル: ライフ
by シンマイ  at 13:45 |  損害とは |  comment (0)  |  trackback (0)  |  page top ↑

交通事故の損害賠償における損害論とは?

Q.交通事故の損害賠償における損害論とは?


A.交通事故の損害賠償請求における問題のうち,特に「損害」の発生と金額について理論化したもの。



損害論


交通事故による損害賠償請求において,もっとも争われるのは,やはり「損害」でしょう。


交通事故の損害賠償請求は,不法行為に基づく損害賠償請求権を根拠とします。損害賠償請求というくらいですから,当然,何らかの「損害」が発生していなければ,賠償請求をすることはできません。


そこで,損害賠償請求をするにあたっては,何を損害として賠償請求するのかということが必要となってきます。


どのようなものが交通事故の損害賠償において損害に当たるのかという問題は,実はなかなか難しい問題です。そもそもそれが損害に当たるのか,あるいは交通事故と因果関係があるといえるのか,などは容易に判断できるものではないからです。


さらに,仮に損害といえるとしても,今度は金額の問題が出てきます。その損害についてはどの程度の賠償金額とするのが妥当かという問題です。


これら交通事故の損害賠償における「損害」にかかわる問題は,総じて「損害論」と呼ばれ,独立した問題として扱われています。



損害論の実務


どのようなものを損害とし,その賠償金額をいくらにするのかということについては,法律の条文に定められているわけではありません。すべてがケースバイケースです。


とはいえ,まったく基準がないというわけでもありません。これまでの裁判例の蓄積によって,ある程度の基準を判断することが可能です。そのようなある一定の基準を見出すことが,まさに損害論の最大の目的といえるでしょう。


実務上,被害者側が損害賠償請求をする場合の基準として用いられてるのが,日弁連交通事故相談センター東京支部が出している「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」という書籍(通称「赤い本」)の基準です。


この書籍は毎年の改定されており,ほとんど裁判における損害賠償基準として用いられているといっても過言ではないでしょう。弁護士のみならず,裁判官も参考にしているとのことです。


この赤い本によれば,損害としては以下のようなものが挙げられています。


  • 治療費・入院費・弁護士費用等の積極損害
  • 休業損害・逸失利益等の消極損害
  • 慰謝料

ちなみに,この赤い本の基準は,交通事故だけでなく,その他不法行為に基づく損害賠償請求全般についての基準として用いられています。


なお,各保険会社は,それぞれ独自に損害賠償の基準を設けています。通常,保険会社の基準は上記赤い本の基準よりも低額となっています。

テーマ: 家庭の法律 -  ジャンル: 結婚・家庭生活
by シンマイ  at 11:42 |  損害論 |  comment (0)  |  trackback (0)  |  page top ↑

会社が支払った従業員の起こした交通事故の損害賠償金を,従業員に対して求償できるか?

Q.会社が支払った従業員の起こした交通事故の損害賠償金を,従業員に対して求償できるか?


A.求償することはできるが,事案によっては,大幅に制限されるか又は一切認められないということある。




従業員に対する求償権


以前にご説明しましたが,従業員が会社の事業の関して交通事故を起こした場合,使用者である会社も使用者責任に基づいて損害賠償責任を負うことがあります(民法715条)。


この場合,仮に使用者・会社が被害者に対して損害賠償金を支払った場合,使用者・会社は,その交通事故を起こした加害者である従業員に対して,支払った損害賠償金を請求することができるのかが問題となってきます。


本来他人が負担すべき金銭を交付をした者が,その他人に対してその金銭の償還を請求する権利のことを求償権といいます。つまり,上記の問題は,会社の従業員に対する求償権の行使が可能かどうかの問題というわけです。


この点,いかに使用者責任とはいっても,実際に不法行為,つまり交通事故を起こしたのは従業員ですから,会社は従業員に対して,被害者に支払った損害賠償金を求償することができるのが原則のはずです(民法715条3項)。




会社・使用者の求償権の制限


もっとも,使用者責任とは,危険責任の原理や報償責任の原理に基づくものと解されています。つまり,会社は従業員を使って利益をあげているのであるから,その従業員を使うことによって生じた不利益も甘受すべきであるという原理です。


その観点からすると,確かに実際に交通事故を起こしたのは従業員ですが,その従業員に働いてもらうことによって会社も利益を得ていた(あるいは今後得ていく)ことになるのですから,その従業員が,少なくとも事業に関して起こした不利益については,会社も一定の負担をすべきであるということになります。


そのため,会社・使用者の従業員に対する求償権の行使は,一定の限度において制限されると考えるのが判例・通説です。どの程度制限されるのかというのは,個々の事情によって異なってくるでしょう。


この点につき最高裁判所第一小法廷昭和51年7月8日判決は,「使用者が,その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により,直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には,使用者は,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において,被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。」と判示しています。


上記の最高裁判例では,結論として,使用者が求償できる金額は4分の1にとどまるとしていますが,事案によっては,会社から従業員への求償を一切認めなかったという裁判例もあります。


裁判例などからすると,使用者・会社の求償権は大幅に制限されることが多いといえるでしょう。場合によっては,求償権行使が一切認めれないこともあるということです。

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by シンマイ  at 18:35 |  損害賠償請求の相手方 |  comment (0)  |  trackback (0)  |  page top ↑

未成年者が交通事故を起こした場合に親に対して損害賠償を請求できるか?

Q.未成年者が交通事故を起こした場合,その親に対して損害賠償を請求できるか?


A.未成年者に責任弁識能力が無い場合には,親に対して監督義務者の責任に基づき損害賠償を請求できる。未成年者に責任弁識能力がある場合でも,一定の要件を満たす場合には,親に対して民法709条に基づき損害賠償を請求できる。また,親が運行供用者に当たる場合には,運行供用者責任に基づき損害賠償を請求することもできる。




未成年者の責任


まず,前提として,そもそも未成年者が損害賠償責任を負うのかということを検討する必要があります。


民法上,未成年者は「未成年者は,他人に損害を加えた場合において,自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは,その行為について賠償の責任を負わない。」とされています(712条)。


上記の「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」のことを責任弁識能力といいますが,未成年者が,この責任弁識能力を備えていない場合には,未成年者自身は不法行為責任を負わないのです。


もっとも,すべての未成年者に責任弁識能力が認められないというわけではありません。未成年者といっても,乳幼児もいれば成人間近の人もいるわけですから,ひとくくりにみな責任弁識能力がないということはできません。


一般的には,12歳から13歳以上であれば責任弁識能力があると考えられています。したがって,その年齢を超える未成年者は,不法行為責任を負うことになるということですので,仮に交通事故を起こしたとすると,損害賠償責任を負担することになります。




監督義務者の責任


【民法724条】

  1. 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において,その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は,その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,監督義務者がその義務を怠らなかったとき,又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは,この限りでない。
  2. 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も,前項の責任を負う。

前記のとおり,未成年者であっても責任弁識能力がある場合には,未成年者自身が責任を負うことになります。他方,未成年者に責任弁識能力が無かった場合には,未成年者自身は責任を負わないということになります。


しかし,未成年者に責任弁識能力が無い場合に誰も責任を負担しないことになってしまうのは,被害者保護の観点から妥当ではありません。そこで,責任弁識能力が無い未成年者による不法行為については,その未成年者の監督義務者が,未成年者に代わって責任を負うことになっています。


この監督義務者とは,「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」です。具体的にいえば,親権者や未成年後見人ということになります。


したがって,未成年者が交通事故を起こした場合,その未成年者に責任弁識能力が無いときは,その親に対して監督義務者の責任を追及して損害賠償を請求することができます。




未成年者に責任弁識能力がある場合


前記のとおり,未成年者に責任弁識能力がある場合には,その未成年者が自ら責任を負うため,親に対して監督義務者の責任を追及することはできません。


しかし,現実問題として,未成年者には,仮に責任弁識能力があったとしても,損害を賠償するだけの経済力などがあるとは思えません。責任弁識能力がある未成年者の交通事故の方が社会的非難は大きいというのに,監督義務者の責任を追及できないがために被害者は泣き寝入りするほかなくなるというのも不合理な話です。


そこで,その矛盾を解消するために,責任弁識能力のある未成年者による不法行為については,監督義務者の責任という構成ではなく,民法709条をそのまま適用して,親に対して責任追及をするという法律構成が用いられています。


つまり,責任弁識能力のある未成年者の不法行為は,親の監督義務違反という不法行為によって生じたものであるとして,親に対する直接の不法行為責任を認めようというものです。


監督義務者の責任は,あくまで未成年者の行為が不法行為であるという発想に基づくものです。ただ被害者保護のために監督義務者に責任を負担させるにすぎませんが,上記の法律構成は,親の監督義務違反という行為自体を不法行為として考えようという発想に基づくものといえます。


ただし,この構成における親の責任は間接的なものですから,何でもかんでも親の責任とするのは妥当ではありません。そのため,裁判例などでも,以下のような限定が加えられています。


  • 監督義務者が相当の監護をすれば加害行為発生が防止しえたこと
  • 監督義務者が上記相当の監護をすることが可能であったこと
  • 上記監護を怠った場合に加害行為が発生する蓋然性があったこと

上記のような要件を満たす場合には,責任弁識能力のある未成年者が交通事故を起こした場合でも,その親に対して民法709条に基づいて損害賠償を請求することが出来ます。




運行供用者責任


未成年者の交通事故であっても,当然のことながら,運行供用者責任は問題となります。したがって,親が運行供用者であると認められれば,当然にその親に対して損害賠償を請求することが出来るということになります。


親が運行供用者に該当するかどうかは,通常の場合と同様,運行支配と運行利益を有するかどうかによって判断することになります。


ただし,親子ですので,子の運転について親に運行利益が生ずると考えるのはなかなか難しいように思えます。したがって,中心となるのは運行支配性でしょう。


裁判例でも,運行支配または管理があったかどうかを判断の中心に据えており,特にその未成年者と同居あるいは車両を親元で保管していたかどうかなどの事実関係が重視されているように思えます。

テーマ: 交通事故 -  ジャンル: 車・バイク
by シンマイ  at 00:44 |  損害賠償請求の相手方 |  comment (0)  |  trackback (0)  |  page top ↑

従業員が交通事故を起こした場合にその使用者・会社に対して損害賠償を請求できるか?

Q.従業員が交通事故を起こした場合にその使用者・会社に対して損害賠償を請求できるか?


A.業務中の社用車による事故の場合は,使用者・会社も損害賠償責任を負担することになるのが一般的である。業務中の従業員のマイカーによる事故の場合,使用者・会社がマイカー利用での業務を厳密に禁止していたときは責任を負わないが,そうでない場合には責任を負うことがある。業務外の事故は,会社・使用者が責任を負担しないのが一般的であるが,会社・使用者が運行供用者といえる場合であれば,従業員の社用車無断利用による事故であっても,責任を負うことがある。



業務中の事故


従業員による自動車運転が,会社の業務として行われている場合であれば,会社も損害賠償責任を負担する場合があります。


会社が,当該自動車の運行供用者であると認められる場合は運行供用者責任を負うことになります。


運行供用者であるというためには,運行支配・運行利益があるかどうかによって判断されるのが一般的ですが,業務上の運転であれば,会社がその運行を支配しているといえますし,従業員の業務としての運行によって利益を得ているといえるでしょうから,運行供用者であると認められる場合が多いでしょう。


また,仮に運行供用者責任が認められない場合であっても,使用者は民法上の使用者責任を追及することは可能です。


もっとも,事故を起こした自動車が社用車ではなく,従業員のマイカーであるという場合には,問題がないわけではありません。


この場合には,会社側がマイカー利用による業務を禁止していた場合であれば,会社は運行供用者責任や使用者責任を負わないと考えられます。


もっとも,業務におけるマイカー利用を認めていた場合や原則は禁止であるけれどもそれを黙認していたというような場合であれば,会社・使用者が運行供用者責任や使用者責任を負うと場合があり,そのような裁判例も多数あります。



業務外の事故


業務外の事故で,しかもその加害車両が従業員のマイカーなどであるという場合であれば,使用者が運行供用者責任や使用者責任を負うことはありません。


もっとも,業務外の事故ではあるけれども,加害車両が会社の自動車であったという場合には問題となります。この場合,仮にその社用車利用が会社に無断であっても,会社が運行供用者であると認められれば,やはり運行供用者責任を負うことになります。


この点について,判例(最判昭和39年2月11日)では,自動車の所有者(会社・使用者)と第三者(運転手)との間に雇用関係等の密接な関係があり,日常の自動車の運転状況や管理状況からして,客観的・外形的に所有者のためにする運行であると認められる場合には,所有者(会社・使用者)は運行供用者責任を負う,と判示しています。


したがって,従業員が加害車両を日常業務に利用しており,しかも,従業員がいつでも利用できるような自動車の管理体制であったというような場合には,仮に業務外で従業員が社用車を無断で利用して事故を起こした場合であっても,会社・使用者が損害賠償責任を負うことはあるということです。

テーマ: 交通事故 -  ジャンル: ライフ
by シンマイ  at 23:13 |  損害賠償請求の相手方 |  comment (2)  |  trackback (9)  |  page top ↑

自動車の所有者に対して交通事故の損害賠償を請求できるか?

Q.自動車の所有者に対して交通事故による損害賠償を請求できるか?


A.運行供用者責任に基づいて交通事故による損害賠償を請求することができる。



所有者に対する請求


交通事故が発生した場合,その加害車両の運転者と所有者と異なるという場合があります。例えば,親の車を借りて子どもが運転をしていたところ,交通事故を起こしてしまったというような場合です。


交通事故による損害賠償請求の相手方は,第一次的には,直接の加害者である自動車の運転者です。したがって,原則としては,運転者に対して損害賠償を請求するのが通常でしょう。


もっとも,運転者には財産がなく,損害の賠償をすることができないという場合があります。そこで,加害車両の運転者と所有者が異なる場合,運転者ではなく,所有者に対して交通事故による損害賠償を請求することができないのか?ということが問題となってきます。



自動車所有者の運行供用者責任


自動車損害賠償保障法(自賠法)によれば,「運行供用者」も交通事故(人身事故)による損害賠償の責任を負うと規定されています。運行供用者とは,自己のために自動車を運行の用に供する者のことをいいます。つまり,運転者に限られないということです。


それでは,自動車の所有者は,この運行供用者に当たるのでしょうか?


自己のために自動車を運行の用に供する者とは,判例によると,「自動車の使用についての支配権(運行支配)を有し,かつ,その使用によって享受する利益(運行利益)が自己に属する者」のことをいうとされています。


交通事故を起こした自動車の所有者は,まさにその自動車の使用に関して支配権を有していますから,運行支配を有していることは疑いありません。また,自動車を運行させることによって生じる利益は,もちろん所有者に帰属しますから,運行利益も有するでしょう。


そのため,自動車の所有者は運行供用者であることは争いがありません。したがって,自動車の運転者と所有者とが異なる場合,所有者に対して運行供用者責任を問うことが可能です。


ただし,自動車が盗まれたものや無断で持ち出されたものであった場合(いわゆる「泥棒運転」の場合)などには,所有者は運行供用者責任を負わないと考えられています。

テーマ: 交通事故 -  ジャンル: ライフ
by シンマイ  at 00:00 |  損害賠償請求の相手方 |  comment (0)  |  trackback (8)  |  page top ↑

死亡事故でない場合でも近親者固有の慰謝料を請求できるか?

Q.死亡事故でない場合でも近親者固有の慰謝料を請求できるか?


A.近親者が「死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けたと認められる」場合には,民法709条・710条に基づいて,または,民法711条の類推適用によって,傷害事故の場合でも固有の慰謝料を請求することができると考えられている。



民法711条の適用範囲


前回までに説明したとおり,交通事故被害者の父母・配偶者・子又はそれらの人に匹敵するような近親者は,民法711条に基づいて近親者固有の慰謝料を請求することができるとされています。


もっとも,711条によると,近親者固有の慰謝料請求の相手方は,「他人の生命を侵害した者」と規定されています。つまり,死亡事故の場合でなければ711条は原則として適用されないということです。



傷害事故の場合の民法711条適用の可否


では,傷害事故の加害者に対しては,まったく民法711条に基づく近親者固有の慰謝料を請求することはできないのでしょうか?


この点について,最高裁判所は,昭和33年8月5日判決において,下記のように判示しました。


民法709条、710条の各規定と対比してみると,所論民法711条が生命を害された者の近親者の慰謝料請求につき明文をもつて規定しているとの慰藉料請求権がすべて否定されていると解しなければならないものではなく,むしろ,前記のような原審認定の事実関係によれば,被上告人Bはその子の死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けたと認められるのであって,かかる民法711条所定の場合に類する本件においては,同被上告人は,同法709条,710条に基づいて,自己の権利として慰藉料を請求しうるものと解するのが相当である。


この判例の事案は,不法行為によって,被上告人の娘さんが顔に当時の医療技術では回復不可能なほどの怪我を負って容貌に重大な障害を負ってしまったというものです。


上記判例は,民法711条によって近親者固有の慰謝料請求が生命侵害の場合にだけ限定されるわけではないとした上で,「死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けたと認められる」ほどの精神的損害が近親者に生じた場合には,(死亡事故ではないので民法711条は使えないとしても)民法709条・710条によって近親者固有の慰謝料を請求できるとしました。


この判例により,死亡事故以外の場合であっても,近親者は固有の慰謝料を請求できるという考え方が実務上認められるようになり,それは現在も続いています。


もっとも,理論構成としては,近時は,民法709条・710条によって認められるという上記判例の考え方以外に,民法711条が類推適用されるという考え方もあります。類推適用説によれば,近親者側の立証責任が怪訝されるというメリットがあります。


ただし,いずれの考え方にせよ,傷害事故で近親者固有の慰謝料が認められるのは,「死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けたと認められる」ほどの精神的損害が近親者に生じた場合に限られます。相当の重傷や重度の障害が生じた場合である必要があるでしょう。

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プロフィール

Author:シンマイ

はじめまして。シンマイと申します。


現在,東京都立川市で,LSC綜合法律事務所という個人の方・中小企業の方を対象とした法律事務所を経営している弁護士です。


法律問題,特に民事の問題でお悩みの方は,当ブログや姉妹ブログ,事務所のHPをご覧ください。もちろん,ご相談もお受けします。お気軽に,LSC綜合法律事務所までお問い合わせください。お待ちしております。

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Takashi Shiga
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